今まで「ミルク」と言えば、シリアルにかけたりやコーヒーに混ぜたりするあの白い液体のことだった。科学的には、「哺乳類の乳腺から分泌される脂肪、糖分、タンパク質、ミネラルなどを含む水溶液で、子孫が育つために必須の栄養を与えるためのもの」というように説明されている。一部には、水牛やラクダ、ヤギの乳を好む人もいたが、ミルクと言えばだいたい牛乳だ。中には牛乳を消化できない人(乳糖不耐症)がいるので、そのような人たちの多くにとって牛乳の普及は喜ばしくないことだった。彼ら・彼女らはコーヒーをブラックで飲み、トーストは固いままで食べるようにしなければならなかったわけで、それはたしかに残念なことだ。
喜ばしくないのはそれだけではなく、牛乳の普及は地球にとっても不幸な結果をもたらしている。世界中の家畜から排出される温室効果ガスのうち約65%が、牛乳や牛肉などを生産するために飼育されている牛によるものなのだ。その温室効果ガスの中でも最大の比率を占めるのが、牛がげっぷをするときに排出されるメタンで、これは二酸化炭素よりも強力だ。しかし最近では、牛乳の代替品がいろいろと見つけられるようになった。植物由来(plant-based)のミルクはどこでも買うことができて、その種類は12種類を下回らないくらいある。では、どれが一番いいのだろうか?
植物性ミルクをランキングする前に、そもそも「植物性ミルクとは何なのか」を考えておいてもよいだろう。それらの多くはナッツや植物の種から作られていて、母乳と同様に子どもの成長に必須の栄養素を含んでいる。製造工程は原料やメーカーによって異なるが、一般的には原料を粉砕したり挽いたりして、水に浸し、ろ過した上で、砂糖や香料を(オートミルクの場合は、デンプンを糖に変えるために酵素も)加えることが多い。植物性ミルクがこれだけ普及したのは最近のことだが、そのルーツはかなり古い。たとえば、豆乳は中国で何世紀にもわたって飲まれてきたし、ライスミルクはメキシコでオルチャータという名前で昔から飲まれている。
さて、ではどの植物性ミルクがベストなのか。もし「自分がおいしいと思うもの」という基準だけで選ぶのであれば、何も議論の必要はない。味覚はまったくもって主観的なのだから。なので他の側面から評価してみよう。まず栄養面ではどうだろうか?牛乳には、タンパク質、カリウム、カルシウム、ビタミンB群などが豊富に含まれているが、これらは植物性ミルクには含まれていない。とはいえ、多くの植物性ミルクには、カルシウムやビタミンDなどの栄養素が追加されている。なお、大量の砂糖が含まれているものも多いので、気になる読者には無糖のものを選ぶことを推奨する。豆乳は牛乳とほぼ同じタンパク質を含み、植物性ミルクの中ではほぼトップだが、エストロゲンに似た物質が大豆に含まれていることを心配する人もいる(この物質のせいで、大豆製品を頻ぱんに摂取すると男性の精子濃度が低下するのではないか、という説があるが、根拠は薄い)。ナッツ自体は高タンパクだが、ナッツミルクはそれほどでもない。タンパク質の面で豆乳の次に優れているのはエンドウ豆ミルクだが、あまり売っていないかもしれない。オートミルクには食物繊維が含まれるが、オーツ麦そのものほど豊富ではない。ライスミルクはほとんど栄養がなく、すぐにブドウ糖に変わる炭水化物を含んでいる。
もう1つの重要な要素は、それぞれのミルクを生産することでどれくらい環境に影響があるか、という側面だが、ここでも事情は複雑だ。というのも、同じ植物でも環境への負荷を抑えて育てることもできれば、野放図に育てることもできるからだ。ただし1つだけ、はっきりと環境への影響が大きいのはアーモンドだ。アーモンド1個を生産するために約4リットルの水が必要で、しかもそのほとんどが干ばつに苦しむカリフォルニアで栽培されているからだ。大豆は比較的広い土地を必要とするものの、マメ科植物はバクテリアとの共生により、大気中の窒素を土壌に栄養を与えるタイプの窒素に変換することができる。そのため、窒素を多く含む肥料の使用量を減らすことができ、ひいては海に窒素を流出させて悪影響を与えることも抑えることができる(同じくマメ科のエンドウ豆についても同様)。オーツ麦は、ミルクになる他の植物よりも少ない水で育てられる。オートミルクは豆乳やエンドウ豆ミルクほど栄養価は高くないものの、それ以外のミルクと比べれば環境の面でも勝っているわけだ。それに、オーツミルクはかなり美味だ(少なくとも筆者にとっては)。
この記事を紹介しているFacebook投稿についているコメントを見ていると、「牛が食べた草由来の“植物性ミルク”が最高に決まってんじゃん」みたいな皮肉と現状維持バイアスがたっぷりのコメントがいくつもあって、欧米でもプラントベースへの抵抗って小さくないんだな、と思うとともに、「しょうがない」が口ぐせで「やらない言い訳」だけは得意な日本のマジョリティにプラントベースが多少なりとも浸透するのはいつになるのやら…となんだか暗澹たる気持ちになりました。